2018/06/08
骨粗鬆症とは、骨密度や骨量が低下することで骨折しやすくなる症状。加齢により進行しやすいことから、高齢になるほど発症率が上がります。
また、高齢者の場合、この発症を機に骨折しやすくなったり、寝たきりになったりするケースも非常に多く、よくある生活習慣病のひとつと呑気に構えていられません。
そのため、骨粗鬆症予防の意味からカルシウム入りの牛乳や飲料、サプリメントなどを積極的に摂る方も少なくありませんが、実際その効果はどうでしょう?
今回は、「骨粗鬆症予防」の視点からサプリメントの効果、さらに「骨を強くする重要性」について考えてみます。
2017年12月、中国の天津病院整形外科から『骨粗鬆症に対してカルシウムとビタミンDのサプリメントがどのような影響を及ぼすのか』という面白い研究論文が発表されました。
(参照:『コミュニティに住む高齢者のカルシウムまたはビタミンD補充と骨折発生率との関連』Association Between Calcium or Vitamin D Supplementation and Fracture Incidence in Community-Dwelling Older Adults: A Systematic Review and Meta-analysis.JAMA. 2017 Dec 26./)
この論文による結論は、「カルシウムの単独摂取、ビタミンDの単独摂取、またはカルシウム+ビタミンDの両方摂取は、高齢者の脊椎骨折や股関節骨折などを予防できるといえるほどのエビデンス(証拠)はない」というもの。
これらの関連・有効性については過去にもさまざまな意見、見解がありましたが、国によっては骨粗鬆症予防の診療ガイドラインでカルシウム、ビタミンDのサプリメントを推奨しているところもあり、今回の論文発表は関連業界の注目を集めました。
骨の大切な成分『カルシウム』と『ビタミンD』
先の調査対象で挙げられたカルシウムとビタミンD。
カルシウムは皆さんご存知のとおり、骨の主成分ですね。
では、ビタミンDはどんな成分でしょう?
ビタミンDは“骨の代謝”に関係する成分で、植物由来のものを『ビタミンD2』、動物由来のものを『ビタミンD3』といい、ビタミンD3は日光(紫外線)を浴びることでも生成されます。
これが不足すると子どもは『くる病』、成人では『骨軟化病』になるともいわれています。高齢者の場合も年を重ねるごとに外出を避ける傾向が強くなり、紫外線を浴びる機会が減ることから、ビタミンD不足になる可能性は十分あります。
このように聞くと「カルシウムとビタミンD。どちらもたくさん摂取することで骨粗鬆症は防げるのでは?」と思うかもしれませんが、調査結果は違いましたね。
では、栄養成分の摂取よりも骨粗鬆症の予防に必要なものとは何か?
答えは“骨を強くする刺激=運動(筋力トレーニング)”です。
ドイツの医学者・ウォルフが提唱した『骨は加えられた力に反発する(ウォルフの法則)』はこれを言い表しており、過去のさまざまな研究からも『筋力を鍛えることで骨密度があがる』ことはわかっています。
特に骨粗鬆症は、高齢女性の発症率が高いのが特徴。女性は閉経によりホルモンの分泌が著しく下がり、エストロゲンの骨吸収抑制作用が低下するため、男性に比べて骨粗鬆症の発症リスクが数倍も高いといわれています。
このリスクを少しでも下げるためにも、“骨を強くする筋力トレーニング”が必要なんですね。
骨粗鬆症で特に多いといわれる骨折箇所は、『脊椎(椎体)』と『股関節』です。
この部分を鍛えるトレーニングには、スクワットがおすすめ。ウォルフの法則どおり、骨に負荷をかけつつ、効果的に骨を強くする効果が見込めます。
リハビリマシンの使用も効果的で、以下のマシンが適しています。
■レッグプレス:
立ち上がり動作や階段の上り下りで足を上げる筋肉を効果的にトレーニングするリハビリマシン。トレーニングを続けることで、椅子からの立ち上がりや階段の昇り降りなど日常動作の改善が期待できます。
■レッグカール:
座った状態で、膝を曲げ伸ばしする運動で歩行に必要な筋力と可動域を改善します。トレーニングを続けることで、歩行時に太ももを高く上げやすくなり、つまずきにくくなります。
■ヒップアダクション:
大腿部、腹部のインナーマッスルを効率よく鍛えます。歩行時の左右のふらつきを改善します。
■アブドミナルバック:
腹筋、背筋群を効率よくトレーニング。体幹を曲げ伸ばしすることで、姿勢を改善します。
ただし、これらの運動はいずれも骨粗鬆症を予防するための筋力トレーニングです。既に骨粗鬆症を発症している人が行うと症状が悪化する可能性がありますので、取り組みの際は十分注意してください。
いかがでしたか?
気軽に摂取できるサプリメントに、つい大きな期待を寄せてしまいがちですが、骨や筋肉の成長には必ず刺激(=運動)が必要です。
また、しっかり食べ、しっかり運動をし、日光を浴び、よく眠る。こんな当たり前の生活こそ健康維持(ひいては骨折予防)にとても大事だということを、改めて認識する必要がありそうですね。
記事執筆:江崎 健太郎
代替医療・予防医療機器の販売メーカー、江崎器械株式会社 代表取締役
2019年より、WCEM(WORLD CONFERENCE ON EXERCISE MEDICINE:世界運動療法学会)外部委員を務める。
EXERCISE & AGEING分野のスピーカーとして講演を行なう。
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