2018/04/03
「地域包括ケアシステム」の構築が推進されている現在、高齢者が住み慣れた地域で“自分らしい暮らし”を続けられるように様々なサービス提供体制が再整備されています。
その1つが、高齢者の自立支援に向けた機能訓練(リハビリ)を実施する通所介護(デイサービス)に対して与えられる「個別機能訓練加算」です。
個別機能訓練加算とは、一言でいうと“高齢者がいつまでも元気で生き生きと在宅生活を送れるように支援するための加算”のこと。
昨今の介護報酬改定により、通所介護(デイサービス)の基本報酬が減額傾向となっている一方、平成27年度の報酬改定ではこの個別機能訓練加算は増額されています。
つまり、現在注目されているのは、いわゆる“自立支援に向けた取り組み”です。
そこで、平成30年度の医療・介護報酬の同時改定のこのタイミングで、今回は個別機能訓練加算について簡単に整理してみましょう。
個別機能訓練加算は、高齢者が住み慣れた地域で在宅生活を続けることができるように、彼らの身体機能や生活能力の維持・向上を目指すもので、2種類あります。
■個別機能訓練加算Ⅰ
■個別機能訓練加算Ⅱ
厚生労働省によると、それぞれの加算の目的は以下の通りとなっています。
【個別機能訓練加算Ⅰの目的】
利用者の自立の支援と日常生活の充実に資するよう複数メニューから選択できるプログラムの実施が求められ、座る・立つ・歩くなどができるようになるといった身体機能の向上を目指すことを中心に行われるものである。
【個別機能訓練加算Ⅱの目的】
利用者が居宅や住み慣れた地域において可能な限り自立して暮らし続けることができるよう、身体機能の向上を目的として実施するのではなく、①体の働きや精神の働きである心身機能、②ADL・家事・職業能力や屋外歩行といった生活行為全般である活動、③家庭や社会生活で役割を果たすことである参加、といった生活機能の維持・向上を図るために、機能訓練指導員が訓練を利用者に対して直接実施するものである。
つまり、個別機能訓練加算Ⅰとは『高齢者の身体機能の維持・向上に対する支援』であり、個別機能訓練加算Ⅱとは『ADL(日常生活動作)やIADL(手段的日常生活動作)に対する機能訓練(リハビリ)を通じて、趣味など社会参加における役割に働きかけることで高齢者の生活を支援』するもの。
それぞれ目的と位置づけが違うのです。
個別機能訓練加算Ⅰ・Ⅱの単位数は、以下の通りです。
■個別機能訓練加算Ⅰ ⇒ 46単位/日
■個別機能訓練加算Ⅱ ⇒ 56単位/日
個別機能訓練加算を算定するためには、機能訓練指導員が中心となって「個別機能訓練計画書」(※1)を作成する必要があります。
個別機能訓練計画書は、ご利用者の身体状況や自宅環境、希望などを考慮して作成されます。また、サービスを提供する上で、ご利用者本人やご家族への説明に対する同意書としても活用されます。
この個別機能訓練計画書を作成する上でポイントとなるのが、「目標」(長期・短期目標)と「プログラム内容」です。
ここで、ご利用者本人やご家族が望まない目標を設定してしまうと、その後の機能訓練(リハビリ)プログラムも全く異なるものとなってしまいます。
そのため、ご利用者一人ひとりに合った適切な目標を設定することと、それを達成するためのプログラムを検討することがとても重要になります。そのためには的確な「情報収集」と「評価」が必要不可欠となります。
情報収集の精度を高める手段のひとつとして、平成27年度の個別機能訓練加算の算定要件の改定以降、個別機能訓練計画書を作成する際には「居宅訪問」が必須要件となりました。
目標設定に必要な情報収集の方法として、主に以下の3つがあります。
■介護支援専門員(ケアマネ)が作成する「ケアプラン」からの情報収集
■「興味・関心チェックシート」(※2)を活用した本人からの情報収集
■居宅訪問で作成する「居宅訪問チェックシート」(※3)を活用した情報収集
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※1~3の各種フォーマットについては、以下、厚生労働省のHPよりダウンロードが可能です。
【厚生労働省】通所介護及び短期入所生活介護における個別機能訓練加算に関する事務処理手順例及び様式例の提示について
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次に「評価」。
ご利用者本人にどのくらいの力があり、どのくらい動けるのか、寝返りや起き上がりなどの基本的な動作と筋力やバランス能力などを中心に身体能力の評価を実施します。機能訓練指導員は、これら収集した「情報」と「評価」をもとに目標の設定とプログラムを立案していきます。
ただし、身体能力の評価については明確な基準はなく、その多くが評価する側の独自の判断基準に委ねられていることから、機能訓練指導員の個人的な能力により評価に差が生じやすくなっているのも現状の課題のひとつです。
ちなみに、個別機能訓練加算は通所介護(デイサービス)だけで算定できる加算ではありません。
特別養護老人ホーム(特養)や短期入所生活介護(ショートステイ)においても算定可能です。
つまり、特別養護老人ホーム(特養)に入所中であっても、短期入所生活介護(ショートステイ)の利用中であっても、それぞれ所定の算定要件を満たし、かつご利用者の身体状況に応じた機能訓練(リハビリ)を行った場合には算定することができます。
個別機能訓練加算の増額は、自立支援に繋がる機能訓練(リハビリ)を高齢者に提供している事業所については、今後積極的に評価していくという国の意向であると考えられます。
平成30年度の医療・介護報酬の同時改定で注目されている自立支援の取り組みとして、個別機能訓練加算の算定がますます重要となることでしょう。
記事執筆:江崎 健太郎
代替医療・予防医療機器の販売メーカー、江崎器械株式会社 代表取締役
2019年より、WCEM(WORLD CONFERENCE ON EXERCISE MEDICINE:世界運動療法学会)外部委員を務める。
EXERCISE & AGEING分野のスピーカーとして講演を行なう。
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